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本ブログに記載されている内容は個人的見解です。

時間あたり賃金の差異 ~男性と女性~

スタンフォード大学の名誉教授であり、健康経済学者であるビクター・フックス氏は

1971年に「Differences in hourly earnings between men and women」を発表した。

 

研究の動機 

アメリカの労働市場において男性は女性より多くの賃金を獲得する、ということが通説となっている。

 

彼によれば、この通説に対しては

 1. 男性は女性より強い

 2. 男性は学生として教育を受けたのち、女性より多くの人的投資を行う(ex. OJT)

 3. 男性は女性より、労働市場に密接な結びつきをもつ

 4. 女性は男性より、労働における非金銭的な側面に重きを置く

 5. 女性は雇用主から差別を受けることが多い

などの仮説がある。

 

そして彼は、男性と女性の賃金の差異は公共政策において非常に重要であると述べている。

彼が重要であると考えた理由は、

 1. 女性は労働力の1/3以上を占めている

 2. 男性と女性の賃金の差異は白人と黒人の賃金の差異より大きい

である。

そして、この男女の賃金の差異が女性に対する差別により発生しているのであれば、アメリカの経済システムには効率性や平等性の観点から問題があるとしている。

 

彼は自身の研究を、「男女の賃金の差異」、「男女の労働時間の差異」、「職種の違い」、「その他労働市場における男女差」に関する数多くの研究の前説のようなものとして位置付けている。

 

目的

1. 男女の賃金差のサイズを特定すること。

2. また、産業・職種毎にそのサイズがどれだけ異なるかを特定すること

 

 

データ

・1960年の人口住宅調査(Census of Population and Housing)における個票データである。

このデータは、全ての産業・職種・労働者階級を網羅している点に強みがある。

 

・賃金のデータ

男女で年間の労働時間に差があるため年収ではなく時間当たり賃金を用いる。

 

・欠点

1. 収入・労働時間のデータが家計のインタビューに基づいており、第三者によってチェックされていない。

2. 週当たり労働時間は1960年の人口住宅調査のデータに基づき、週当たりの勤労所得は1959年のデータに基づいている。

しかしこれらの欠点は、前著やその他の研究から考えると、

本サンプルの有用性を低下させず、本研究の目的達成の障害にはならないと言及している。

 

データ処理

1. 非農業従事者を以下のカテゴリーで分類

 1. 性別

 2. 人種

 3. 年齢

 4. 教育年数

 5. 都市サイズ

 6. 労働者階級

 7. 結婚ステータス

 8. 通勤時間

2. 上記のカテゴリーからより詳細なグループを1万超生成。

 ex. "男性"かつ"白人"かつ"20代"かつ...

 1. 5万超のサンプルサイズをグループに分類

 2. 少なくとも1人を含むグループは約4500

 3. 各グループ内の年収合計、労働時間合計を計算。

 4. 各グループ内の時間あたり賃金を導出

 5. 観測値が50以下のグループは除外 or フラグをたて明示

3. 男女の賃金差は、男性の賃金に対して女性の賃金は何%かという方法で示した。

4. グループ間の差異は、単回帰、重回帰にダミー変数を組み込むことで明示した。

 

結果

 

男女の賃金差異

1. サンプルにおける女性の賃金は男性の賃金の60%であった。

2. サンプルにおける結婚している女性の賃金は結婚している男性の賃金の58%であるのに対し、一度も結婚していない女性の賃金は一度も結婚していない男性の賃金の88%であった。この現象の背景には、結婚している女性は結婚していない男性と比較して、労働を行うインセンティブが少ないこと(収入を男性に依存している可能性がある)などがあると考えられる。

 

男女の賃金差異に対する女性差別仮説

 男女の賃金差異に対する女性差別仮説とは、男性と女性の間の賃金の差異を発生させているのは職場における女性差別である、という仮説のことである。もしこの仮説が正しいのであれば、職場環境を自分でコントロールできる自営業者である男性と女性の間には賃金差が存在せず、職場環境を自分でコントロールできない民間企業に勤める男性と女性の間には賃金差が存在することになる。データによれば、

1. 自営業者である女性の賃金は自営業者である男性の賃金の41%であり、民間企業に勤める女性の賃金は民間企業に勤める男性の賃金の58%

であった。つまり民間企業と比較して自営業者の方が男女の賃金差があるため、前述の仮説は棄却される。なお、自営業者の男女に賃金差異が生じているのは、顧客による性別差別が考えられる。例えば自動車修理の個人商店で男性が運営している商店と女性が運営している商店であれば、顧客は男性が運営している商店に自動車修理を依頼したいかもしれない。

 

年齢と結婚ステータス

 結婚しており配偶者がいる男女の賃金差異は年齢とともに増加していく。20代前半の結婚している女性の賃金は結婚している男性の賃金の約80%であるが、50代後半では約60%となる。一方で、結婚していない男女の賃金差異は年齢の増加とともに変化せず、女性の賃金は男性の賃金の約80~85%で一定である。