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不動産価格とオリンピック

2013年9月7日、アルゼンチンの首都のブエノスアイレスで行われた第125次IOC総会で、2020年に東京オリンピックが開催されることが決まった。

 

そもそも、オリンピックとはピエール・ド・クーベルタン氏の提案により始まった。彼はフランスの貴族の三男として生まれ、軍人や政治家になることを嘱望されていた。しかし、1870年から1871年普仏戦争での敗戦を経験した彼は、国中に蔓延している敗戦ムードを取り除くためには教育改革を行うしかないと考え、教育学に傾倒するようになる。

 

そこで、クーベルタン氏はイギリスのパブリックスクールへ視察に行くのであるが、彼が見たイギリスの学生は積極的かつ紳士的にスポーツに取り組んでいた。そんな学生に感銘を受けたクーベルタン氏は、「フランスの服従による知識の詰め込みではこのような学生は育たない。スポーツを取り入れた教育がすぐにでも必要である。」と考えた。

 

このような大局観を持った、一人の青年によって、オリンピックはスタートしたのである。※1

 

オリンピックはオリンピックの哲学であるオリンピズムの考え方に基づいて、開催されるべきである。オリンピズムは、肉体と意志と知性の資質を高揚させ、均衡のとれた全人のなかにこれを結合させることを目ざす人生哲学である。オリンピズムが求めるのは、文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見出されるよろこび、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である。※2

 

しかし、現代のオリンピックがこのような清廉潔白な哲学に基づいて、開催されているかと問われれば、答えは否である。

 

NYUセンター所属のコンスタンチン准教授によれば、都市がオリンピックを開催するのには4つの要因による。

 

  1. 都市の国際レベルでの認識を獲得すること
  2. 経済変化を加速させること
  3. 統一的な目標を設定することによる社会的・政治的刷新
  4. インフラの発展

 

何も初めから、この4つの要因にしたがって、オリンピックが開催されてきた訳ではない。クーベルタン氏が思い描いたオリンピズムに基づいて、当初のオリンピックは開催されてきたはずである。このような傾向が顕在化したのは1984年のロス五輪からである、とコンスタンチン准教授は述べている。※3

 

高尚な目的を掲げた裏には、利益を追い求める泥臭い考え方があるのは世の常であるが、健全なスポーツが経済発展などのために利用されていると考えると少し寂しい気持ちにもなる。

 

しかし、オリンピックが経済に大きな影響を与えるのは事実であり、それを経済のために利用するという考えを否定することはできない。

 

以下に、オリンピックが経済に大きなウェイトを占める不動産市場に与えた2つの影響を見ていこう。

 

1964年東京オリンピックは1959年に招致が決定された。統計的な手法を用いた研究結果がないため、原因がオリンピックであると断定することはできないが、1960年~1961年にかけて東京の市街地価格指数は80%も増加した。なおオリンピックの翌年の1965年には、価格指数は減少している。※4

 

2012年ロンドンオリンピックにおいては、2008年にリーマンショックがあり、世界的不況が発生したにも関わらず、2009年から直前の2013年まで不動産取引量は増加した。また、2014年に取引量は減少しており、東京オリンピック時と傾向が一致している。

 

このことから、オリンピックは不動産市場に大きな影響を与えることが示唆される。

 

前述した、コンスタンチン准教授がUrban Studiesというトップジャーナルに、オリンピックと不動産価格の関係に関する論文を発表している。

 

次回は、その論文に書かれていることを簡潔に見ていこう。

 

※1 

https://www.joc.or.jp/olympism/coubertin/

※2 

https://www.joc.or.jp/olympism/charter/konpon_gensoku.html

※3

Constantine Kontokosta (2012) "The Price of Victory: The Impact of the Olympic Games on Residential Real Estate Markets" Urban Studies, 49(5) 961–978

※4

http://www.reinet.or.jp/pdf/gorin/column20130924.pdf